摩耶夫人の五種の夢:『摩訶摩耶経』
こんにちは。丸岡です。『安倍晴明記三』で掲載しきれなかったコンテンツを少しずつご紹介したいと思います。本日は、釈尊の母、摩耶夫人が見た5つの夢についてです。『摩訶摩耶経』と『仏母経』で描写されていますが、『摩訶摩耶経』の該当部分をご紹介します。
〔原文〕
又於其夜得五大惡夢。一夢須彌山崩四海水竭。二夢有諸羅刹。手執利刀競挑一切衆生之眼。時有黒風吹。諸羅刹皆悉奔馳歸於雪山。三夢欲色界諸天忽失寶冠。自絶瓔珞不安本座。身無光明猶如聚墨。四夢如意珠王在高幢上。恒雨珍寶周給一切。有四毒龍口中吐火。吹倒彼幢吸如意珠。猛疾惡風吹沒深淵。五夢有五師子從空來下。嚙摩訶摩耶乳入於左脇。身心疼痛如被刀劍。
〔書き下し文〕
又其の夜に五大惡夢を得(う)。一の夢は須彌山崩れ四海の水竭(つ)き、二の夢は諸羅刹有り、手に利刀を執り一切衆生之眼を競挑す。時に黒風吹く有りて、諸羅刹皆悉(ことごと)く奔馳(ほんち)し雪(せつ)山(せん)に歸(き)す。三の夢は欲色界の諸天忽(たちま)ち寶冠を失(しつ)す。自(おのづか)ら瓔珞(やうらく)絶(た)へ本座に安んぜず、身に光明無く猶ほ聚(じゆ)墨(もく)の如し。四の夢は如意珠王(によいしゆわう)高く幢上(どうじやう)に在り、恒(つね)に珍寶雨(ふ)り周(あまね)く一切に給ふ。四つの毒龍有りて口中より火を吐き、彼(か)の幢を吹き倒し、如意珠を吸ふ。猛疾惡風は吹きて深淵に沒す。五の夢は五つの師子有りて空從(よ)り來下し、摩訶摩耶の乳を嚙み左脇に入(い)る。身心疼痛し刀劍を被(かうむ)る如し。
競挑:佛學大辭典には「競排」とある。「競ひて一切衆生之眼を排す」と訓じるか。
「维基文庫 佛學大辭典/摩耶夫人五夢」より
瓔珞:インドの民族で、珠玉や貴金属を綴り頭・首・胸にかける装身具。のちに、仏菩薩などの身を飾るものとして用いるようになり、寺院内でも天蓋などの装飾に用いる。
如意珠王:如意珠は梵語チンター・マニ(cintā-maṇi)の漢訳。如意宝珠、無価宝珠、摩尼宝珠ともいい意のままに宝や衣服、食物を出す徳をもつ宝珠のこと。あらゆる宝石の王である如意珠。
幢:はた。経文を書いた布、または経文を彫った石柱。
〔意訳〕
「大智寺だより 平成三〇年如月 Vol.92」https://www.daichiji.com/okusan/pdffile/pdf201802.pdf
をご参照ください。