易経書経講義 周書 金滕 その5

 周公、猶云ふ、我が身、元孫の、死に代はらんことを、祈請すれども、未だ、三王在天の尊霊、我が願意を、受けたるや、否やを知り難し。故に今われ、それに就きて、三王の命、如何んと云ふことを、元亀に問ふて、以てこれを卜(うらな)はんとす。故に、卜、もし吉兆を得ば、これ、三王我に聴きて、その願を許されたるなり。果たして然らば、われそれ、植きたる所の璧と、乗りたる所の珪とを以て、退き帰つて、爾三王が、元孫(武王)を保護するの命(元孫の疾、平癒することを指す。)を俟(ま)たん。爾、もし、我に聴かずして、その願意を、許さずんば、すなはち爾の子孫を、下地に、安定せしむること、能はざるのみならず、爾先王も、またその依頼する所を失はん。(周の基業は、必ず堕ち、国亡びて、宗祀永く絶えんと、云ふことなり。)然るときは、我また、神に事ふることを願ふて、得べからざるのみ。然らば、われは、すなはち、その璧と珪とを、蔵め屏(おさ)めんとなり。周公、鬼神に告ぐるをみるに、生きたる人に云ふが如し。兄を愛し、国を憂ふるの情、争(いか)でか、先王の霊の、感応なからんや。

 周公旦は、更に言いました。

「私は、武王の死の身代わりになりたいとお願いしておりますが、まだ、天におられる三王のご尊霊が、私の願いを聞かれたのかどうか分かりません。そのため、私は今、三王のお考えがどうなのかを、亀の甲羅によって占おうと思います。占いで、もし吉兆が得られたら、三王は私の願いを聞き入れ、お許しを下さったということになります。そうなれば、私は璧と珪を以て置いたまま、帰って武王を守れとの命令を待ちましょう。もし、私の願いを聞き入れてもらえず、お許しが得られないならば、あなた方の子孫を下地にして国を安定させることができなくなるばかりでなく、あなた方も、その寄る辺を失うことになるでしょう。(周の礎となる行いは必ず無駄になり、国が亡んで、あなた方を尊び祀ることも永遠になくなるでしょう、ということです)

そのようなときは、私がまた神に仕えることを願っても、実現することはないでしょう。そうであれば、私はこの璧と珪をしまい、もうお仕えすることはありません。」

 周公旦が鬼神に告げる様は、まるで生きている人に言うようでした。兄を愛し、国を憂える思いに、どうして先王の霊の働きかけがないでしょうか。

 

 周公は、祝辞既に畢(おは)り、すなはち三人(卜筮を掌るの、官三人なり。)に命じて、同じく大亀を灼(や)きて、これを卜せしめて、相参考するに、三亀の兆は、一同に、皆吉兆を重ね見したり。然るに、猶未だ、匱中にある所の、占書を見ず。故に、管を以て、その匱を開き、内に蔵むる所の、占書を取つて、これを観るに、これまた、併せて吉兆なりし、となり。」これ、三王の霊、冥冥の中に於いて、元孫の、生命を保護すること、推して知るべし。また、周公誠孝の感ずる所なり。

籥:続字彙補に、鑰(かぎ)と同じ、搏鍵の器なりとあり。鑰は、鎖鑰なり。説文に、関下の牡なり。本□(門構えに龠)に作る。徐曰ふ、通じて籥に作ると。礼の註に、管籥は、鍵を搏(う)つの器なりとあり。(そ)に、鉄を以て、これを為り、鎖内を搢(はさ)んで、以てその鍵を搏ち取るなり、とあり。

疏:経典の注釈。また、その書物。

 周公旦は、祈りの言葉を終えて、占いを掌る三人に命じて、大亀の甲羅を焼いて、占わせました。三つの亀の結果は、一同に、どれもが吉兆でした。しかし、まだ金滕の櫃の中にある占いの書を確認していません。そこで、鍵でその櫃を開け、中にしまっていた占いの書を取って読んでみると、これまた吉兆であったことが分かりました。

 これは、三王の霊があの世において、武王の命を守ろうとしていることを推察できるでしょう。また、周公旦の、誠の孝行へのお答えだったとも言えます。